【学会参加レポート1】あなたのその痛み、実は脳が記憶している?

―最新研究から見える慢性疼痛の正体と鍼灸の可能性―

こんにちは!スタッフの飯塚です!

先日、愛知県名古屋市で開催された第74回全日本鍼灸学会学術大会に参加してまいりました。

全国の鍼灸師や研究者が集い最新の知見を学ぶ貴重な機会です。

当院も常に知識をアップデートし、日々の施術に活かすべく積極的に参加しております。

 今回は数ある講演の中から、自然科学研究機構の鍋倉順一先生の教育講演「痛みと神経の関連性と先端知見」が特に興味深かったので、私なりの考察も交えて皆様にご紹介したいと思います。

長引く痛みにお悩みの方にとって、きっと新しい発見があるはずです。

 

 そもそも「痛み」とは?

皆さんは「痛み」と聞くと、どのようなイメージを持ちますか?

今回の講演で、痛みは単なる体の異常信号だけではなく「感覚かつ情動の不快な体験」と定義されていました。


つまりケガなどの「感覚的な要素」だけでなく「つらい」「不安だ」といった「情動(感情)の要素」が合わさることで、より「痛み」を強く認識するそうです。

同じケガでも、精神的に落ち込んでいる時の方が強く痛みを感じるのはこのためです。

3つに分類される「痛み」

痛みには、大きく分けて3つの種類があります。

1.  侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)

   切り傷や打撲、やけどなど、体の組織が傷つくことで生じる一般的な痛みです。

「ズキズキ」「ジンジン」といった表現が当てはまります。

2.  神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)

   神経そのものが損傷したり、圧迫されたりして起こる痛みです。

坐骨神経痛や帯状疱疹後神経痛などがこれにあたり、「ビリビリ」「チクチク」としびれるような痛みが特徴です。

3.  痛覚変調性疼痛(つうかくへんちょうせいとうつう)

   最近注目されている第3の痛みです。

体には明らかな傷や神経の損傷がないにもかかわらず、脳の痛みを感じるシステム(感覚の変調)が機能不全を起こして痛みを生み出してしまう状態です。

線維筋痛症などが代表的で心理的・社会的なストレスが大きく関与すると言われています。

慢性疼痛の深刻な現実 ― 脳に起こる変化

驚くべきことに、日本において慢性的な痛みを抱える人は人口の約22.5%、つまり4〜5人に1人もいると言われています。

そして、この慢性痛は、単に痛みが長引いているだけではありません。

近年の研究で、驚くべき変化が体に起きていることが分かってきました。

・脳が萎縮する

・痛みの情報が入力される「脊髄後角」の神経回路が変化する

つまり、慢性痛は「気のせい」などではなく、脳や脊髄といった中枢神経に物理的な変化を引き起こしてしまうのです。

痛みは、脳の「ペインマトリックス」と呼ばれる複数の領域(情報を整理する前頭前野や、感覚を司る一次体性感覚野など)で処理されます。

痛みが長く続くと、この脳の神経回路が痛みに過敏な状態に「組み換え」られ、その状態が「記憶(メモリー)」されてしまいます。これが「痛みが慢性化する」状態の正体です。

【考察】

ここまでの話を聞いて、「一度記憶されてしまった痛みはもう元に戻らないの?」と不安に思われたかもしれません。

しかし、今回の講演では、希望の光となる研究結果も紹介されていました。

鍵を握る「アストロサイト」と脳の“再学習”

私たちの脳や神経は、固定的で変わらないものではありません。

驚くことに、大人の脳でも1週間に5〜10%の神経細胞の接続部分(シナプス)が新しく作り替えられているそうです。これを「神経の可塑性(かそせい)」と呼びます。

そして、一度固定化してしまった痛みの神経回路を再び正常な状態へと変化させる鍵として注目されているのが「アストロサイト」という細胞です。

アストロサイトは、脳内で神経細胞をサポートする「グリア細胞」の一種ですが、近年の研究でこのアストロサイトを活性化させると固定化された神経回路の再編成を促せることが分かってきました。

これは、何を意味するのでしょうか?

私は、鍼灸治療がこの「神経の可塑性」に働きかけ「アストロサイト」を介した神経回路の再学習を促す強力なツールになり得ると考えています。

鍼や灸による皮膚、皮下組織や筋肉への刺激は、末梢神経を通じて脊髄に伝わり、さらには脳のペインマトリックスにまで到達します。

この心地よい刺激が、痛みの悪循環に陥っていた脳に働きかけ、過敏になった神経を鎮めるきっかけとなります。

そして、固定化された「痛みの記憶」を上書きするように「心地よい感覚」「安心する感覚」を脳に繰り返しインプットすることで、神経回路の正常な組み換えをサポートできるのではないでしょうか。

特に、原因不明とされがちな「痛覚変調性疼痛」のように、脳機能の不具合が原因となっている痛みに対して、鍼灸が心身両面からアプローチできる可能性は非常に大きいと感じています。

終わりに

今回の学会参加を通じて、長引く痛みが単なる体の問題ではなく、脳や神経の「記憶」や「学習」と深く関わっていることを再認識しました。

そして、鍼灸治療がその悪循環を断ち切る一助となる可能性を改めて確信しました。

もし、あなたが今、どこへ行っても改善しない痛みにお悩みでしたら、それは脳に記憶された「痛みの記憶」が原因かもしれません。

諦める前に、ぜひ一度、当院にご相談ください。最新の知見に基づき、あなたの脳と体、両方から痛みの根本改善を目指します。