中高年以降の男性…

「なんとなく不調」「なんだかやる気が出ない」「突然のほてりや発汗」「生活習慣病の悪化」などが続いているようであれば「男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)」かもしれません。

一般的には更年期障害と言うと女性の病気だと思われがちですが、実際は男性も更年期障害により日常生活に支障が出るかたがいらっしゃいます。

男性更年期障害は男性ホルモンのテストステロンの低下により起きると言われています。

まずは、テストステロンって何?という話から

順天堂大学 泌尿器科 メンズヘルス外来
順天堂大学 泌尿器科 メンズヘルス外来

①テストステロンについて

男性ホルモンのテストステロンは、男性では性衝動の発来と精子形成に必須なホルモンです。

テストステロンは、筋肉の量と強度を保つのに必要で、造血作用を持ち、男性の性行動、性機能に重要な役割があります。

また、テストステロンは集中力や判断力を有する高次精神機能に影響しています。

男性のテストステロンの産生は約95%が精巣内のライディッヒ細胞で作られています。

残りの約5%が副腎で作られています。

(女性もテストステロンを卵巣と副腎で産生していますが、男性ほど多くつくられません。)

テストステロン値が低いと性機能障害、認知機能・気分障害、筋肉量減少、内臓脂肪の増加、貧血、骨密度の減少、インスリン抵抗性を介したメタボリックシンドロームなど男性のQOLを著しく低下させると言われています。

また、テストステロンはやる気の源ともいわれていて、男性の活力を保つのに必要なホルモンです。

テストステロンの中でも更に細かく分類すると総テストステロンの中にバイオアベイラブルテストステロン(活性化テストステロン)と活性化しないテストステロンがあります。

特に生理的活性があるバイオアベイラブルテストステロン(活性化テストステロン)は身体の中でも30%ほどしか存在せず、普段からテストステロンは少ない状態と言われています。

女性の場合は更年期の頃、閉経によりエストロゲンの急激な減少が起き一過性に辛い状況になる方がいますが、低エストロゲン状態が続いても身体が徐々に順応していくとその後は元気になります。

しかし、男性の更年期はテストステロンがダラダラと減っていくので、長い期間調子が悪い状態が続く可能性があります。

テストステロンの産生

③男性更年期障害について

次は、男性更年期障害の症状についてお伝えします。

テストステロン減少に伴う男性更年期障害は、活力低下、性欲減退、勃起・朝立ちの消失、メタボ体質、睡眠障害、うつなどの症状が現れる場合があります。

男性更年期障害を診断する上でテストステロン値を測る必要があるのですが、国内と海外ではテストステロンの基準値や測るテストステロンの種類が異なります。

海外では、テストステロンの減少に伴う症状が見られる患者に対して総テストステロン値を測定し診断します。

(アメリカ:2.0ng/mL未満、ヨーロッパなど:2.3ng/mL未満)

テストステロン値がボーダーラインの患者は更に遊離テストステロン値を測定します。

日本国内では、テストステロンの基準値は遊離型テストステロン値を基準値としています。

これは、日本人特有で総テストステロンの減少が軽度のことが多く、遊離型テストステロン値を測ることでテストステロンの有意低下がわかるため遊離型手ストステロン値を測るそうです。

余談ですが、日本の保険制度では総テストステロンと遊離型テストステロンの同時測定ができようです。

国内での遊離型テストステロンの基準値は40代で13.7ng/mLとなっております。

遊離型テストステロン値を測定して低値であれば、ART(アンドロゲン補充療法)を第一に行います。

8.7pg/mL以上11.8pg/mL未満はART治療選択の一つとして検討します。

11.8pg/mL以上では、ARTは行わずに症状に応じた対処療法を行います。

男性更年期の評価はAMS評価を行います。

AMSは男性更年期障害(LOH)の重症度を評価する診断基準です。

AMS評価は、テストステロン値、心理因子項目5、身体因子項目7、性機能項目5,の4つの項目で構成されています。

各項目に応じて5段階評価をして、合計点数により重症度を分類します。

なし:17~26点、軽度:27~36点、中等度:37~49点、重度:50点以上となっています。

③筋肉トレーニングとテストステロンについて

次に、筋肉トレーニングとテストステロンについてお伝えします。

筋肉トレーニングを行うと、筋肉中のアンドロゲン受容体が増加します。

アンドロゲン受容体はテストステロンと結合して筋肉を肥大させます。

したがって、筋肉を構築するにはテストステロンが必要です。

ただし、中高年の方には注意が必要です。

たとえば、マラソンなどの負担の大きい運動は、筋肉の修復に大量のテストステロンを必要とするため、体内でテストステロンが急激に減少する可能性があります。

さらに、テストステロンの生成には時間がかかるため、一時的にテストステロン値が低下し、活力や気力が低下する人もいます。

男性は年齢を重ねるにつれて、過度な運動には注意する必要があります。

④睡眠とテストステロン

テストステロンの産生は睡眠とも関係しています。

1日の睡眠時間が4〜5時間の男性は7時間睡眠を取る人に比べてテストステロンの産生が低くなります。

また、テストステロンの分泌が低い人はメタボリック・シンドロームにもなりやすいと言われています。

メタボリック・シンドロームになると最終的には透析、失明、脳卒中、痴呆、心不全など疾患に罹患しやすくなります。

男性がメタボリック・シンドロームを予防するには、テストステロン値を高く保つ必要があり、更年期の男性は適度な運動は必要です。

⑤男性更年期障害と鍼灸治療

男性更年期障害に対する鍼治療は、テストステロンの産生を保つためにライディッヒ細胞の機能を維持する目的に治療を行います。

ライディッヒ細胞は血液から酸素や栄養を取り込んで細胞機能の維持をしています。

男性更年期障害に対する鍼灸治療は、精巣の血液循環を促す目的で行います。

もともと精巣は解剖学的に血液の鬱滞が起こりやすい臓器で、特に精巣へ繋がる左精索静脈は大動脈が邪魔をしているため直接下大静脈へ血液を戻すことができません。

そこで、左精索静脈は左腎静脈に接続して血液を戻しています。

左右の腎静脈は静脈が横方向に流れて下大静脈へ接続していますが、左精索静脈は左腎静脈に直角に繋いでいるため、鬱滞が起こりやすい構造となっています。

その結果、左の精索静脈瘤ができやすいと言われています。

左精索静脈に鬱滞が起こると、代謝物質が溜まってしまい、右側の精巣にも悪影響が出ます。

精巣の状態が悪いということは、テストステロンがうまく産生されないので、鍼灸治療を行うことで精巣の循環を良くする事が男性更年期障害の症状改善に役立つと考えられています。