~五十肩、腱板断裂について~in長野県臨床鍼灸学会
ここのところ徐々に気温が上がり少しずつ夏本番を感じる今日この頃ですが、皆さんはどのように過ごされていますでしょうか?
6月23日に長野県佐久市にて長野県臨床鍼灸学会が開催され参加して参りました。
今回の学会は肩の疾患を中心に腱反射所見の実技講義が織り込まれ、肩関節専門の整形外科医の坂井邦臣先生の特別講演があり大変勉強になった学会でした。
一部内容を皆さんにシェアできればと思います。
まず始めに症例報告です。三名の先生方が日々の臨床で出会った症例について報告されました。各先生方それぞれに治療方法や手技など違いがあるため、とても参考になる症例報告となりました。
次に、教科書+αでとる神経所見と題しまして飯田の林智成先生がご講義されました。
基本的でありながら忘れがちな神経学的検査の原則やこの神経検査ができれば及第点と言われたルーチンな検査項目など腱反射を行う意義や実演があり大変勉強になりました。
○神経学的検査の原則
・苦痛を与えない(最小限に)
・全体像の把握を優先する
→不必要な検査は避ける
→立ち振る舞いから神経学的異常を見出す
・“訴え”と“所見”を混同しない
○ルーチンな検査項目
1、 上腕二頭筋反射
2、 腕橈骨筋反射
→回内筋反射 →下顎反射
3、 上腕三頭筋反射
4、 膝蓋腱反射
5、 アキレス腱反射
○腱反射の判定
・触覚と視覚で確認
・速さと大きさ
・左右差を比べる 一番大事!!
午後からは浅間総合病院整形外科医の坂井邦臣先生の特別講演でした。
◆肩の痛みについて
−五十肩と腱板断裂を中心に−
●五十肩(四十肩)とは…
・肩関節は骨性の支えなく筋や軟部組織でぶら下がっている状態。
・非常に可動域が広い。(股関節は骨性の支えある)
・関節包(柔軟性がある)が炎症を起こして固くなるのが五十肩。
●五十肩(特発性肩関節拘縮)
関節の袋が炎症を起こして固くなった状態、炎症を起こしているので痛みがある(夜間痛)固くなっているので動きが悪くなっている(動きの悪さ)
→炎症細胞が集まり燃えさかる
→関節包が分厚くなっている、真っ赤
→動きが悪くなる!!
○なぜ袋が炎症を起こすのか?
・ちょっとした怪我(若い頃はスッと治ったものが治りにくい)
・糖尿病→組織線維化、治り悪い
・加齢による姿勢変化、筋肉の硬さ、関節の硬さ
肩関節はまず肩甲骨が動いて上腕骨が動く
肩甲骨・・・無意識で動く単関節筋(関節を良い角度で固定してくれる)インナーマッスル
インナーマッスルの動きが悪くなる(機能不全)アウターマッスルしか使えず、アウターマッスルが疲弊して動かせなくなる。
関節包の炎症は下垂位外旋で0°〜10°は間違いなく関節包が分厚くなっている。
下垂位外旋60°行く人は屈曲もできる
●五十肩の夜間痛
ロキソニン等の痛み止めは効果なし(トラムセットなどの麻薬系の痛み止めは効く)ステロイド注射(ケナコルド)のみしか効かない。このように痛みは取れるが、関節包の厚さの解消には時間がかかる(1〜2年程度)
●五十肩は自然に治るの?
袋(滑液包?)の炎症は治まることが多い(3〜6ヶ月程度)、ただし、固くなった袋が柔らかくなるのには非常に時間がかかる。通常1年〜2年程度
*固くなった袋はリハビリや運動で柔らかくすることは出来ない。自己治癒力による袋の柔軟性回復を待つしかない。
●早く炎症を鎮めるためには?〜坂井先生の場合〜
・安静が大事 無理なリハビリは逆効果になることもある
・痛み止めの内服
・関節へのステロイド注射
・しっかり寝ることも大事
●治らない五十肩
糖尿病などの影響で、袋の炎症がいつまでも治らない。
袋だけでなく周りの筋肉まで固くなってしまい、肩の動きが改善しない。
袋の炎症は治まり、痛みはなくなったが動きが全く改善しない(袋の柔軟性が回復しない)
痛みが強すぎて眠れない、うつになるなど、待てば改善する可能性があるのに痛みが強すぎて待てない。
難治性の五十肩
●五十肩まとめ
関節の袋が炎症を起こして固くなる
糖尿病などの基礎疾患、遺伝が影響
加齢に伴う肩甲骨の動きの悪さ、姿勢不良、筋肉の硬さなどが原因
【治療】
まず袋の炎症を鎮める(安静、内服、ステロイド注射)
袋の柔軟性回復には1年以上の時間がかかる
固くなった袋はリハビリでは改善しない
*難治性の五十肩には内視鏡手術が有効(肥厚している関節包をレーザーで焼く)
●腱板断裂とは…
腱板とは…肩甲骨と腕の骨をつなげる腱。
筋肉の先が腱(スジ)となり、腕の骨を覆っている。
全部で4つあり、それぞれの腱がつながり板状となっている。
腕の骨を肩甲骨に押し付ける役割がある
肩甲骨と腕の骨をつなげる腱が断裂している
→発生頻度は70歳代で26,5%(4人に1人)との報告あり
→完全に切れた構造物が自然に治ることは基本的にはないといわれている。
→問題は棘上筋が断裂して他のカフが残っても(3/4)動けるが、腱板の断裂は徐々に広がってくる!また、広がりすぎると手術で治せなくなる
●肩関節の二重構造(三重構造)
肩関節は、まず腱板が上腕骨骨頭を押し付け、三角筋が上腕骨を引き上げるという二重構造になっている。
腱板の押しつけ作用がなくなることによって支点がぶれ、三角筋が押しつけ作用を代わりにするため、三角筋が疲弊して肩がパンパンに張り、コリが出る。
実はまず肩甲骨が胸郭をスライドし、腱板が作用して、三角筋が引き上げるという三重構造でもある。肩甲骨の動きは無意識で行われている。
・
・
・
以上。
坂井先生曰く「肩関節の機能を正確に理解している整形外科医は実はあまりいない」というくらいなので我々鍼灸師も十分に理解できていなかったのだと反省すると共に大変勉強になりました。
10年前に比べると五十肩に対する考えも随分変わっていてアップデートすることが出来てよかったです。
「五十肩は動かさないと固まってしまうので痛くても動かしましょう!」なんて言っている方がいたら「それは昔の話ですよ」って教えてあげてくださいね。
今は難治性の五十肩も手術で改善する時代になっているようです。
腱板断裂の手術も昔は癒着がひどくなるので予後があまりよくないといっている時代がありましたが、内視鏡手術では適切にリハビリをすれば大変予後もいいようです。
ただその専門医があまり多くないのが残念なところですが・・・。
五十肩に対する鍼灸治療も筋肉の拘縮や緊張をとるばかりでなく、関節包の炎症をとるという点にもう少しアプローチすればさらに改善するのではないかという気がしました。
辛い五十肩を「一発で治してほしい」というリクエストもあるかもしれませんが、ある一定期間かかるのは致し方ないのが現状のようです。
もし「どんな五十肩も一発で治します!」なんていうサイトがあったら、無知か、誇大表現だと思ってスルーしてくださいね(^^;)
当院では、五十肩になりやすい体質を東洋医学的な視点で鍼灸治療をもちいて改善させたり、姿勢などの異常を調整したり、スーパーライザーや微弱電流などをもちいて炎症を抑えるような治療をさせて頂いております。
難治性で痛みが非常に強いものは、整形外科に紹介しステロイド注射をしていただく場合もありますが、多くの症例は順調に改善されておりますのでお困りの方はご相談ください。
重症化したものは長期的な治療が必要になってきますが、急性で軽度のものほど早く改善しますのでできるだけ早めにご相談くださいね(*^^*)