お灸の作用機序と治療効果

こんにちは、スタッフの飯塚です。
今回は、鍼灸治療の一つである「お灸」について、
その作用と効果を学ぶ機会がありましたので、
皆さんと情報を共有したいと思います。
1. お灸とは?

すでにご存じの方も多いかと思いますが、
お灸は、主にヨモギから作られた「もぐさ」を用いて皮膚上の特定の点(経穴、ツボ)に温熱刺激を与え、
体の反応を引き出すことで症状の改善を目指す治療法です。
お灸には、もぐさを皮膚に直接乗せて燃焼させる「直接灸」と、
皮膚との間にもぐさ以外のもの(生姜やニンニク、味噌、塩など)を挟んだり、
もぐさを皮膚から離して温めたりする「間接灸」があります。
間接灸には温灸(おんきゅう)や隔物灸(かくぶつきゅう)といった種類がありますが、
今回は特に、皮膚に直接温熱刺激を与える直接灸の作用と効果に焦点を当ててお話しします。
2. 直接灸の特徴と基本的な作用

直接灸は、もぐさの精製度(純度の高いもぐさは、ヨモギの葉裏にある白い「毛茸(もうじょう)」が多く、茎や葉の混入が少ないです)、もぐさの大きさや硬さによって、感じる熱さが異なります。
直接灸を行うと、皮膚にごく小さな火傷(やけど)、いわゆる「灸痕(きゅうこん)」が形成されることがあります。
体はこれを一種の外部からの刺激(侵襲)と捉え、その部位で傷を修復しようとする反応(創傷治癒反応)が起こります。
この微細な熱刺激とそれに伴う体の反応が、お灸の効果を引き出すきっかけになると考えられています。
3. お灸による白血球への影響
お灸による熱刺激は、体の防御システムにも働きかけます。
具体的には、骨髄での白血球の産生が促進されると考えられています。
白血球は、体を細菌やウイルスなどの異物から守る免疫細胞の総称で、
大きく分けて5つの種類があります(好中球、リンパ球、好酸球、好塩基球、単球)。
その中の「リンパ球」には、T細胞、B細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞といった種類があります。
4. お灸に期待される効果
お灸には、古くから以下のような効果があると言われています。
- 抗炎症作用: 炎症を和らげる働き
- 白血球の増加と活性化: 免疫機能の向上
- 血小板の増加: 止血作用の補助
- ヘモグロビンの増加: 赤血球中の酸素運搬能力の向上
さらに、ここ10年ほどの研究では、お灸が免疫システム全体に複雑に関与していることが分かってきました。
具体的には、以下のような点が注目されています。
- 痛みの緩和:温熱刺激や血行促進による効果
- 炎症性サイトカインの調整:炎症を引き起こす物質(サイトカイン)のバランスを整える
- 細胞内シグナル伝達への影響: 細胞間の情報伝達に関わる
- 腸内細菌叢への影響:腸内環境を整え、免疫に影響を与える可能性
以前からお灸の抗炎症作用は知られていましたが、
最近の研究では、お灸が免疫細胞による免疫応答の働きに作用することで、
自己免疫に関連する炎症反応そのものを抑制する可能性があるのではないか、と示唆されています。
5. 炎症性疾患とお灸の関係(研究例)
近年の研究では、特定の炎症性疾患に対するお灸の影響が調べられています。
- 関節リウマチ
関節リウマチは、免疫システムの異常により関節に炎症が起こる病気です。
研究によると、関節リウマチモデルのラットにお灸を行うと、
炎症を促進する特定のT細胞(Th17細胞)が減少し、
逆に炎症を抑制する働きを持つT細胞(Treg細胞:制御性T細胞)が増加することが観察されました。
Treg細胞が増えることで、抗炎症作用を持つ物質(サイトカインIL-10)の産生が促され、
炎症反応が緩和されると考えられています。
- 潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こる病気です。
腸内細菌のバランスが関与していると考えられています。
潰瘍性大腸炎モデルのラットを用いた研究では、
お灸を行うことで腸内細菌叢のバランスが調整され、
腸管の免疫細胞が活性化し、抗炎症作用を持つサイトカイン(IL-10など)が増加し、
炎症性サイトカインが減少する傾向が見られました。
これにより、腸の炎症が改善される可能性が示唆されています。
これらの研究は、お灸が免疫細胞のバランス(特にTh17細胞とTreg細胞のバランス)を調整し、
抗炎症性サイトカイン(IL-10など)を増やし、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-17など)を抑制することで、
炎症を和らげる可能性を示しています。
6. お灸による免疫反応の持続性とその他の効果

お灸による皮膚への刺激は、白血球を増加させるだけでなく、
血流に乗せて炎症部位や全身に届け、免疫反応に関与すると考えられています。
お灸による免疫への影響は一定時間持続すると言われていますが、
その具体的なメカニズムや持続時間についてはまだ研究が進められている段階です。
また、継続的なお灸(例えば、1ヶ月以上の施灸など)により、
ウイルス感染細胞などを攻撃するNK細胞の活性化が見られることも報告されており、
体の免疫応答全体に良い影響を与える可能性が考えられます。
鍼治療で効果が得られにくい場合に、灸療法が有効なケースもあります。
これは、鍼治療とは異なる作用機序(温熱効果、特有の心地よさ、治癒促進など)を持つためと考えられます。
さらに、直接灸による定期的な皮膚への刺激が、
ウイルスの増殖を抑えるインターフェロンという物質の産生能力を高め、
抗ウイルス作用に寄与する可能性も研究されています。
7. まとめ
これまでの研究から、お灸を継続的に行うことは、
- 白血球の増加と活性化
- 血小板やヘモグロビンの増加
- 抗炎症作用
- 免疫機能の調整(免疫バランスの改善)
といった様々な作用を通じて、私たちの体に良い影響を与え、
多様な症状の改善につながる可能性があることが分かってきました。
お灸は、古くから伝わる経験的な知識と、
最新の科学的な研究によって、
その効果が少しずつ解明されつつある、
奥深い治療法と言えるでしょう。
皆さんも当院でお灸を体験してみませんか?