親子スキンタッチ教室〜肌で触れ合う大切なこと〜

皆さんこんにちは、スタッフの飯塚です。今回は「親子スキンタッチ教室」でお伝えしている、肌で触れ合うことの大切さについて、皮膚刺激とオキシトシンを中心にご紹介します。
親子スキンタッチ教室とは
小児はりを家庭向けにアレンジした「ツボ健康法」です。ご家庭にあるスプーン・歯ブラシ・ドライヤーを使い、お子さんと親御さんがスキンシップを深める方法をお伝えしています。
教室の3つの目的
- 肌と肌で触れ合い、親子の絆を育む:難しい技術はいりません。やさしく触れるだけで、子どもと大人の双方から「オキシトシン(愛情ホルモン)」の分泌が高まります。
- おうちでできるケアを身につける:「何かしてあげたいけれど、何もできない」という気持ちに応える小さなケアです。毎日のスキンタッチが保護者ご自身の安心にもつながります。
- 鍼灸・東洋医学を身近に感じてもらう:「鍼灸院は敷居が高い」「子どもも来てよいの?」と思う方も多いはず。まずは教室から、気軽に東洋医学に触れていただきたいと考えています。
ここからは、その中心となる「皮膚刺激」と「オキシトシン」について掘り下げていきます。
皮膚刺激の深掘り〜皮膚と脳をつなぐ道〜
皮膚への刺激が子どもの発達・発育に関わることは以前から知られていました。では、その刺激は脳へどのように伝わるのでしょうか。皮膚から脳へ向かう神経(求心路)には、性質の異なる2種類があります。
| Aβ線維(識別性タッチ) | CT線維(情動性タッチ) | |
| 線維の特徴 | 有髄・高速 | 無髄・低速(有毛部の皮膚にあり、手のひらなど無毛部にはない) |
| 最適な刺激 | 形・質感・位置の識別 | ゆっくりなでる動き(秒速1〜10cmほど) |
| 脳への経路 | 脊髄の後索 → 延髄で交代・交叉 → 視床 → 一次体性感覚野(S1) | 脊髄後角 → 交叉 → 前外側系 → 視床→ 島皮質(S1への投射は弱く、伝わるのも遅い) |
| 主な役割 | 「どこを・どう触られたか」の識別 | 心地よさ・安心感など情動面の処理 |
Aβ線維は、触れたものを「正確に見分ける」ための経路です。一方、CT線維(C-tactile afferents)は、やさしくなでる刺激に反応する特殊なC線維で、「心地よさ」を伝える役割を担っています。CT線維の情報は、内臓感覚の中枢でもある島皮質で処理され、「快の身体感覚」として統合されると考えられています。
ポイント:スキンタッチでの「やさしく、ゆっくり触れる」は、まさにCT線維を狙った情動性タッチです。物を識別するためではなく、安心感や愛着、社会性を育む経路を直接刺激する行為といえます。
また、脳から戻る経路(遠心路)では、脳から迷走神経を介して心臓や内臓へ指令が送られ、副交感神経が優位になって心拍が落ち着くことも知られています。やさしく触れられると「ほっとする」のは、この働きとも関係しています。


オキシトシンの深掘り
肌の触れ合いと「愛情ホルモン」
肌と肌が触れ合うと、「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンが分泌されます。しかも、触れられる側だけでなく触れる側からも分泌されるのが大きな特徴です。
- 子どもへの効果:愛着の形成と情緒の安定/ストレス耐性の向上/社会性の発達/安心感・探索意欲の向上
- 親への効果:子への愛情の強化/育児不安・ストレスの軽減/産後うつの予防/父親も同様に分泌
オキシトシンは脳の視床下部(室傍核・視索上核)でつくられ、下垂体後葉から血中に分泌されるほか、脳内の各所にも直接働きかけます。ヒトの血中基礎値は1〜5pg/mL程度ですが、分娩時には拍動的に高まって数十pg/mLに達し、授乳でも分泌が促されます。
赤ちゃんの時期だけの特別な感受性
出産直後の肌の触れ合いはオキシトシンの分泌を促し、愛着の土台をつくります。この時期(ゴールデンアワー)に行うカンガルーケアは、母乳分泌の促進や体温・心拍の安定にも役立ちます。
さらに乳児期は、オキシトシン受容体の発現が特に高い「感受性期」で、この時期の刺激が母親へ向かう行動を調整するといわれます。この感受性は成長とともに低下していきます。だからこそ、スキンタッチを毎日・意図的に行うことは、乳幼児期に特に意義が大きいのです。
オキシトシンの連鎖〜触れているだけで、自分も癒される〜
オキシトシンは「もらう」だけでなく「あげる」ことでも分泌されます。
- 触れる側(親):やさしく触れることでオキシトシンが分泌され、子への愛情・感受性・共感力が高まります。育児ストレスやコルチゾールの低下も期待できます。
- 触れられる側(子ども):皮膚のCT線維がやさしい刺激に反応し、オキシトシンの分泌が促されます。安心・リラックス・愛着形成につながります。
「触れているだけで、自分も癒される」。この体験こそが、スキンタッチを続ける一番の動機になります。大人が先に癒されることで、子どもへの接し方も自然と穏やかになります。
お母さん・お父さんそれぞれにとっての意義
- お母さん:授乳中の肌の接触でオキシトシンが分泌され、母子の絆が深まります。産後うつの母親ではこのオキシトシンのしくみが働きにくいことが報告されており、意図的なスキンタッチが分泌を促して予防的に働く可能性があります。
- お父さん:父母のオキシトシン基礎値に差はありません。母親はやさしく触れる「愛情タッチ」、父親は「たかいたかい」など遊びの中でのタッチで上昇するとされ、触れ方が違ってもよいのです。遊びのタッチに多く関わる父親ほどオキシトシンが高く、父親の関与が増えると母親のストレスも軽減されます。
なお、オキシトシンには愛着を深める一方で、子を守るための「防衛的な攻撃性」を高める側面もあります。ラットの実験では母親の子を守る攻撃が強まり、ヒトの実験でも、仲間への信頼を高めつつ、脅威が迫る外敵にのみ攻撃性が高まることが示されています。スキンタッチは、子どものためだけでなく、両親自身の「心の健康」を守る時間でもあるといえるのではないでしょうか。
子どもの脳と社会性の発達
- 脳の発達・報酬系:オキシトシンはドーパミン報酬系と相互に作用し、社会的なつながりや信頼の調節に関わります。スキンタッチは、この報酬系を日常的に活性化します。
- 社会性・愛着の基盤:母親の高いオキシトシンレベルは、子どもの社会性の発達と良好に関連します。乳幼児期の体験が将来の人間関係の土台になります。
- ストレス耐性・不安の軽減:ストレス応答系(HPA軸)を抑制してコルチゾールを下げます。幼少期のスキンタッチの体験が、生涯のストレス耐性に影響すると考えられています。
オキシトシン受容体の密度は乳幼児期にもっとも高く、この時期のスキンタッチの体験が、オキシトシンの仕組みそのものの成熟を促すと考えられています。
まとめ
毎日5分のスキンタッチは、子どもの社会脳・ストレス耐性・愛着形成を育て、同時に親御さん自身も癒してくれます。「今の安心」だけでなく、「将来の社会性や心の健康への投資」になるのではないでしょうか。
当院では、親子スキンタッチ教室でお話している、ご家庭でできる具体的なスキンタッチ法のやり方をお伝えしています。ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。
参考文献
La Rosa et al. (2024) Children 11(11):1407/McGlone et al. (2014) Neuron
脳科学辞典「オキシトシン」(丸山・上田 2025)/Uvnäs-Moberg K. The Oxytocin Factor, 2003
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Feldman (2012)/Carter (2014)/Uvnäs-Moberg et al. (2020)/UCL, Psychoneuroendocrinology (2025)/Cochrane Review (2025) Skin-to-skin contact

