逆子の基礎知識と鍼灸治療による対応

今回は逆子の鍼灸治療に関してお伝えしようと思います。

逆子の鍼灸治療は、妊娠週数28週頃に逆子と診断された時から週数31週位までに治療を始めると良いとされています。

これは、一般的に妊娠週数が31週を過ぎると胎児が大きくなり、羊水の量も30週をピークに減少してくるので、子宮内のスペースが減少し胎児が動きづらくなり、逆子の矯正率が下がるためで、妊娠週数31週頃までに逆子の治療を行なうと矯正率が高いと言われているからです。

逆子の頻度

日本における正期産での逆子の頻度は3〜5%で、妊娠28週未満ではおよそ30%であるとされています。

胎位分類

赤ちゃんの胎位には縦位、横位、斜位があり縦位の中に頭位(正常)と骨盤位(逆子)があります。

赤ちゃんは出産時に産道を頭から通ってくるのが通常で、お母さんの骨盤に頭がある状態を頭位と言います。

それ以外のものを大きな括りで骨盤位と分類します。

骨盤位は殿位、膝位、足位に分類することができます。殿位は臀部が先進するものをいいます。また、単殿位と複殿位に分類できます。膝位は膝部が先進するものをいいます。

全膝位と不全膝位があります。 足位は下肢が下方に進展して先進するものをいいます。 全足位と不全足位に分類されます。

鍼灸治療の開始時期、改善率

赤ちゃんは妊娠の早い時期から子宮の中で自己回転をしていますが、妊娠週数28週くらいになると頭が恥骨側に位置する“頭位”で安定するようになります。

しかし、逆子の形で安定することもあり、その状態で分娩に臨むと前期・早期破水、臍帯の圧迫や脱出、遷延分娩(せんえんぶんべん:初産婦で30時間以上、経産婦で15時間以上かかっても生まれないこと)の危険性が高いので、逆子を矯正した方が良いといわれてきています。

逆子が問題になるのは、28週くらいからで産婦人科や助産院ではこの頃に逆子を告げる事が一般的です。

鍼灸治療の逆子回転率は初診週数が31週までに治療を始めたケースで回転率80%ほどですが、32週以降は急に低くなります(40〜50%)。

しかし、鍼灸の逆子治療は40週まで行った報告もありますので、32週以降で回転率が悪くても一度試す価値はあるように思います。

分娩時に赤ちゃんが頭位であるの確率は約95~97%で、逆に骨盤位は約3~5%と言われています。
横位、斜位はかなりまれと言われています。

状態的には頭位は正常ですが、骨盤位、横位、斜位は異常な胎位と言えます。

また、赤ちゃんが骨盤位になってしまう大部分は原因不明と言われています。

鍼灸治療の意味

骨盤位の分娩は頭位分娩に比べ赤ちゃんの分娩損傷や周産期死亡のリスクが高いため、新生児予後の観点から予定帝王切開術が主流となってきています。

骨盤位に対する帝王切開により骨盤位で生まれてくる赤ちゃんの予後が改善されました。

しかし帝王切開術は近年安全に行えるようになったとは言え、お母さんの体にとっては侵襲的な方法で、特に初産の帝王切開術は次回の妊娠における帝王切開術実施率の上昇といった新たな問題を生じさせる事から、骨盤位分娩や帝王切開術を回避するため分娩前に頭位にさせる胎位矯正術が見直されてきています。

骨盤位の矯正には外回転術、胸膝位指導(逆子体操)、鍼灸治療などが行われています。

現在これらの中でR C T(ランダム化比較試験)によるエビデンスに基づいて有効とされているのは、外回転術のみです。

外回転術は常位胎盤早期剥離や臍帯圧迫、胎盤血腫形成、子宮内胎児死亡などの合併症が起こるリスクを伴うため、敬遠される傾向にありましたが、その頻度は0.3%程度で医療機関の管理下においては安全に行えるケースが多い為、近年見直されてきております。

胸膝位(逆子体操)に関しては、十分なエビデンスがないという理由で進めない医療機関が増えてきております。しかし逆子体操後に改善される方もいますし、お腹の張りをとったり、ストレッチ目的で辛くない範囲で行う事は悪くないかなと思っております。

鍼灸治療に関しては、十分なエビデンスまでは出せておりませんが、有害事象の報告もなく、一定の改善率も報告されており、比較的安全に行えるので試してみる価値は十分にありますので是非お試しください。

また何よりお腹の張りやむくみ、冷え、こむら返り、腰痛などのマイナートラブルも一緒に治療できますのでQOLの改善にも非常にいいと妊婦さんからも好評です。

逆子の鍼灸治療の仕組み

鍼灸治療を下肢のツボに行うと自律神経を介して子宮血流の改善、胎児の胎動増加を促します。その結果、胎児が回転しやすくなったのではないかと考察した論文があります。

また、逆子の治療に効果のあるツボに刺激をすると子宮動脈と臍帯動脈の血管抵抗が優位に低下する(血流が増加するということ)事がわかっていて、子宮の血流量が増加し子宮筋の収縮が取れて胎児の胎動を容易にさせているのではないかと考察されています。

以上のことから、逆子の鍼灸治療は、お母さんのお腹の中で胎児が回転しやすくなるので大変期待されております。

逆子の鍼灸治療

当院での逆子の鍼灸治療は、逆子の治療穴の至陰穴(しいんけつ)、三陰交穴(さんいんこうけつ)などを中心に妊婦さん一人一人の状態を見ながらツボを追加して治療を行います。

逆子は身体の冷えやお腹の張りが影響している事が多いと言われています。

三陰交穴には、灸頭鍼(きゅうとうしん)でツボを刺激します。灸頭鍼とはツボに刺している針の頭の部分へお灸を乗せて輻射熱でツボを温める治療法です。

また、至陰穴へは直接お灸をして熱刺激をツボに与えます。お灸は体を温める効果と熱の刺激でツボへ反応させる効果があります。当院へ来院できない時にはご家庭で棒状のお灸を使ってツボを温めていただく指導もさせて頂いております。

治療期間

当院の逆子の治療はまず3日間続けて治療を受けてもらう様にお勧めしております。3回治療を続けても頭位に戻らない場合は、1週間に1〜2回のペースで治療を受けていただく様になります。多くの方は5回くらいの間に改善しますが、胎位や羊水、臍帯の状態によっては治りにくい状態の方もいますのでエコーで確認しながら患者さんと相談の上治療をすすめていきます。

また、ご自宅でお灸ができる方は棒状のお灸を持ち帰っていただき、ご自宅にてツボ刺激を行っていただいております。

安全な逆子鍼灸治療を行なうにあたって  

当院では下記の4項目を配慮しながら治療にあたっています。

  • 出血有無の確認

少量でも出血がある場合は必ずお伝えください。安静、医療機関への受診を優先する場合もあります。

  • 腹部緊満感の確認

治療前にいつもと違う強いお腹の張りがある場合はお伝えください。妊娠週数や張り具合により治療を見合わせる場合もあります。

  • 子宮運動抑制剤の使用の有無

病院で子宮運動抑制剤(ウテメリン等)を処方されている場合は予めお伝えください。切迫早産を指摘され子宮頸管長が3cm以下で安静を指示されている場合は治療を見合わせる場合もあります。場合によっては安全なセルフケアをご提案させていただきます。

  • 仰臥位時の気分不良有無の確認

当院では、妊婦さんの体調を伺い、配慮しながら治療をすすめていきます。

妊婦さん数週を重ねると仰向けで寝ていると気分が悪くなることがしばしばあります。

これは仰臥位(上向き)の状態では、下大静脈(かだいじょうみゃく)を圧迫され、心臓への還流血液量が減り心拍出量が低下することで血圧が下降するために起きると言われています。

この仰臥位性低血圧症候群は妊婦さんの5〜8%に見られると言われています。

症状としては悪心、嘔吐、めまい、冷や汗、顔面蒼白、不安感、チアノーゼ、多呼吸などがみられる場合があります。

ご自宅でこの様な状況になった場合は左下側臥位になると下大静脈の圧迫が解放されすぐに楽になりますのでお試しください。

もし治療中に、気分が悪かったりしたら遠慮なくおっしゃってください。

左側臥位に体勢を変えればすぐ楽になりますのでご安心ください。

以上が当院の逆子治療になります。 安全第一で治療に取り組んでいますので、心配な事があればお気軽にご相談くださいね。

また当院では、逆子以外にも妊婦さんのつわり、便秘、痔、頭痛、首肩こり、腰背部痛、坐骨神経痛、股関節・恥骨痛、こむら返り、むくみなど、マイナートラブルの治療も行なっておりますので、遠慮なくご相談ください。