男性不妊に対する鍼灸治療

男性不妊と鍼灸治療

男性不妊について

最近の不妊症について、男性不妊についての研究も盛んに行われるようになってきました。

不妊症は女性のみならず男性にもかなりの割合で原因があります。

では、不妊症の中で男性が占める割合はどれほどなのか、下記の図を御覧ください。

不妊症男女差2

こちらのデータはWHO(世界保健機構)が調べたデータで、男性のみ24%と男女ともにあり24%をあわせて48%になります。

不妊の原因に男性が関与するのは半分程とデータから読み取れると思います。

5.5組に1組は不妊治療または不妊の検査を受けている??

日本では、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は、全体で 18.2%、子どものいない夫婦では 28.2%です。

これは、夫婦全体の5.5組に1組に当たります。(国立社会保障・人口問題研究所「2015 年社会保障・人口問題基本調査」による)

男性不妊の原因

では次に男性不妊の原因についてお話しいたします。

男性不妊の原因には造精機能障害、精路通過障害、性機能障害があります。

下記の表をご覧ください。

男性不妊原因3

こちらの表は、男性不妊の原因を平成9年度と平成27年度でどの程度の割合なのかを見比べた表です。

表を見ますと男性不妊の原因の造精機能障害は平成9年度・平成27年度の割合はほとんど変わっていません。

男性不妊患者さんの8割を超える人が造精機能障害で悩んでいます。

また、平成27年度になると精路通過障害と性機能障害の数値が逆転しているのも数値から読み解けます。

性機能障害とはED(勃起不全)や射精障害のことです。

勃起不全はバイアグラ等の薬剤で機能が改善しますが、射精障害においてはマスターベーションで強く握りすぎていたり床にこすりつけて行ったりしていると強い刺激に生殖器が慣れてしまい改善が難しい場合もあります。

射精障害の中で逆行性射精の場合も治療が難しい病態とされています。

WHO精液所見基準値とは?

次に精液所見について見ていきます。下記の表を御覧ください。

WHO精液所見基準値

こちらの表は2010年にWHOが示した精液所見の基準値です。

クリニックにて精液検査を行うと上の表の項目が記載されているかと思いますが、施設によっては独自の基準を設けており、実際はWHO基準より厳しい基準となっております。

WHOの精液所見基準値に記載されている数値は平均値ではなく最低ラインです。

この数値を下回ると自然妊娠は不可能だと思って以下と思います。

また、数値を少し上回っているだけでは安心とは言えません。

その場合も自然妊娠はかなり厳しいと言われています。

自然妊娠可能な男性の精液所見は?

それでは、次に下記の表をご覧ください。

自然妊娠可能な男性の精液所見

(Iwamoto T. Nozawa S. Yoshiike M. et al:Semen quality of fertile Japanese men:across-sectional population-based study of 792 men. BMJ Open. 2013:3:pill:e002223より引用)

こちらの表は、自然妊娠ができたご夫婦の旦那さんに精液検査をお願いして出た数値です。

WHOの精液所見と比較して見ますと、精子濃度に関して、WHO精液基準が1500万以上で表の平均中央値は8400万(数値×10の6乗)でWHOの基準値を大きく上回る平均値です。

また、精子運動率についてもWHO精液基準値は40%に対して表の平均中央値は66%でこちらもWHOの基準値よりも上の数値となっております。

WHO基準値より数値が低いということは、現実的にかなり厳しい状況だということがわかります。クリニックではWHO基準値よりも低い精液所見の場合、高度生殖医療を選択せざるを得ない状況になってきます。

当院では、鍼灸治療による男性不妊の治療をおこない、精液所見を自然妊娠可能な数値に近づけるようにしていきたいと考えています。

不妊の原因が男性の場合はパートナーも負担増

不妊治療の段階で原因が男性であった場合、現在の生殖医療では、一般生殖医療よりも高度生殖医療を優先することが多く、男性に原因があるにも関わらず、女性の負担が大きくなる傾向があります。不妊の原因が男性側とわかった時点で不妊治療の段階を上げざるを得ないケースが多いのが現状です。

例えば、女性側は若くて、検査を行って何も問題がない状態だとしても、男性側が高度の乏精子症や無精子症など精子回収術が適用の男性パートナーの場合、女性側は採卵、体外受精、胚移植と多くの負担がかかります。

男性側の意識が低い傾向がありますが、これらのことを踏まえて男性にもしっかりと認知してもらう必要があると思います。

精液所見を改善させる治療法は確立されていない??

残念ながら現在の生殖医療では精液所見を改善させる明確とした治療法はありません。(精索静脈瘤の高グレードで手術適用のケース、明らかな内分泌異常を除く)最新の研究が待たれるところです。

現在、男性不妊の治療に関して、原因の8割以上が造精機能障害で、そのうち半数が原因不明の状態です。つまり、8割以上の半数の方は西洋医学の治療法がない状態です。精液所見が改善する治療が求められているのが現状です。

私達の行う男性不妊に対する鍼灸治療により少しでも精液所見が改善した状態になれば、不妊治療の段階を下げることができる可能性があります。

男性不妊の鍼灸治療

男性不妊に関する鍼灸治療 2 min

鍼灸治療で期待できる効果は・・・

・造精機能の改善(総精子数、奇形率)
・精子運動率の改善
・精巣への血流改善
・男性生殖器の機能改善
・自律神経調整
・免疫機能改善
・疲労回復
・睡眠改善
この様になっております。

●男性不妊に対する鍼灸治療は性機能障害造精機能障害運動率の低下に治療効果があります。

陰茎海綿体への内圧増加、骨盤内循環改善、精巣血流量増加、精液液状化のしやすさなどの効果が臨床研究で明らかになってきました。

性機能障害(勃起不全)は、主に仙骨部への治療を行います。

仙骨部には副交感神経が分布しているため、鍼灸治療を行うことによって自律神経ー血管反射が起こり、血管が拡張します。

特に仙骨骨膜に鍼刺激を行うと大脳の勃起中枢、骨盤神経を介して陰茎海綿体の内圧増加することで勃起機能が改善します。

造精機能障害には主に鼠径部への治療を行います。

「SR鍼灸 烏丸」院長の伊佐治景悠先生の臨床研究によりますと、鼠径部への鍼通電刺激(10Hz・10分)を週1回、2~3ヶ月位行うことにより、総精子数、運動率が改善すると報告されております。

これは交感神経を介し、血管抵抗性が高まることで、精巣血流循環が改善され、造精機能が向上したと考えられます。

精子の運動率の改善には、仙骨骨膜刺鍼を行います。

「SR鍼灸 烏丸」院長の伊佐治景悠先生の臨床研究によりますと、中髎穴(仙骨)骨膜刺鍼は上脊髄性の反射を介し勃起機能を改善させると共に、副生殖器に働きかけ精漿中のPSA濃度を上昇させることで精子運動率を改善されることが明らかになったようです。また精子運動率の改善には、採卵、採精前日の治療でも効果があると報告されております。

仙骨部への鍼刺激が精子運動率へ及ぼす影響 精子無力症患者への臨床応用にむけて

男性不妊症の新たな治療法:鍼治療による精液所見の改善効果を確認  日本アンドロロジー学会第37回学術大会で発表

原因によっては、鍼灸治療により、男性因子の改善には大いに期待できます!